プロジェクトの立ち上げ方が、事業の“続く力”を決める2025.9.10 株式会社クリエイティブアローズ 古川 智一

皆さま、こんにちは。株式会社クリエイティブアローズの古川です。

ここ数年、私たちの業界でも「売上は伸びているが、組織として前に進み切れていない」という声をよく耳にします。
私自身、日々その“綻び”に向き合っています。
増収・増案件は喜ばしい一方で、継続的に価値を届け続けるためには、利益構造への理解と現場の実務力が欠かせません。
ここでいう利益構造とは細かい会計数値の話ではなく、「プロジェクトに投入した時間やコストが、事業として持続的に回収されるか」という視点です。
私はこの視点に立ち、現場の初動設計やチームの動かし方を見直しています。

以下、私が現場で気づき、いま試していることを整理します。
完璧な正解ではありません。むしろ「私たちは今、こう試しています」という記録としてお読みください。
経営層の皆さまにとって、現場で使える気づきがあれば嬉しいです。

 

初動の「質」を上げる——設計不足が生む余分な工数

多くの案件で発生しているのが、初回接点での前提不足です。最初の打合せで次の項目を充分に揃えられなかった結果、後工程での手戻りや追加作業が発生します。

私が導入しているチェック項目(初動キックオフ)

・成果の定義(クライアントが「これで良い」と言える状態を具体化する)
・スコープとアウト・オブ・スコープの明記
・主要な意思決定者と承認フローの明確化
・想定されるリスクと暫定対応方針
・キャスティングの狙い(なぜこの担当者が必要なのか)
これらをテンプレート化し、PMが初回で配れるようにすると、見積・計画の精度が上がり無駄なやり直しが減ります。
今はまだ検証段階ですが、手戻り削減の兆しは見えています。

 

伝えるべきは“やってほしいこと”ではなく“期待される価値”

「分からなかったら聞いてください」と投げるだけでは、現場は受動的になります。
私が強く意識しているのは、キャスティング時に“期待値(Why)”を必ず伝えることです。

この差は大きく、前者は作業物をただ作ることになりがち、後者は考える余地が生まれ、成果の質が上がります。
特に外部パートナーやミドル(中堅)層に対しては、「なぜその人が必要か」を言語化して示すことが重要です。
尊重を示したうえで期待を伝えると、当事者意識が育ちやすいことを現場で実感しています。

 

PMの初動クオリティを上げると、チーム全体の稼働が変わる

PMの仕事は「調整屋」ではなく「初動で仕事の形をつくること」です。
私たちはここに時間を割くべきだと考えています。具体的施策は次のとおりです。

・打合せ用の標準資料を用意:数値、目的、ベンチマーク、次のアクションが一目で分かる。
・社内依頼テンプレートの導入:依頼内容・期待出力・締切・検収基準を明記。
・PMの初動研修:短い時間での仮説立て、優先順位付けの訓練。

これらにより、PMは「調べものや書類作成」に時間を奪われず、クライアントとの価値設計やアイデア創出に時間を充てられるようになります。
結果として、PM一人が対応可能な案件数が増え、組織全体の“対応力”が上がるはずです。
ここもまだ試行段階ですが、効果を数値化して評価していきます。

 

クライアントにとって分かりやすい提案ロジック

クライアント側のマーケティング理解は年々高まっています。
タイムフィーや工数増に対する理解度も上がっているため、私たちが旧態依然の提示を続けることはリスクです。
実務では次のように提案設計を作り変えています。

✓提案書で「フェーズごとの工数・コスト」と「期待成果」をセットで示す
✓PoC(概念実証)やスモールスタートを提案し、投資対効果を段階的に示す
✓変更発生時の相談・合意フローを契約フェーズで予め定める

これにより、クライアントは投資の“目的”と“効果”を理解しやすくなり、長期的な協働・予算化へとつながると考えます。

 

ツールは当たり前、だが目的化はしない

AIや自動化ツールは、リサーチや議事録、初稿作成などの“下処理”で有効です。
私たちはこれを導入し、浮いた時間を初動設計やクライアント対話に回すことを徹底しています。
ただし、ツール導入自体が目的化しては意味がありません。
肝は「ツールで生んだ時間を何に使うか」を現場で明確にすることです。

 

ミドル(中堅)と若手の関係性の整備は、成果の再現性を生む

私が強く感じているのは、ミドル層が“価値を出す場”を持つことで、若手の成長が加速するということです。具体的な取り組みはシンプルです。

・姿勢を問う短時間ディスカッション:「この案件であなたが示したいプロとしてのポイントは?」
・教える場を設ける:ミドルが若手に案件の進め方や判断基準を説明する時間をプロジェクトに組み込む。
・期待値の明示:年上のミドルには敬意を持って「ここで期待したい振る舞い」を伝える。

ここで重要なのは、ミドルを叱咤するのではなく、経験を価値化してもらう場を作ること。
私はこの点でまだ試行錯誤中です。成果は段階的ですが、局所的に良い循環が生まれています。

 

現場での取り組みが、組織の“持続力”を作る

最終的に目指すのは、単発の成功ではなく「継続して価値を出し続けられる組織」です。そのためには、次の3点が不可欠です。

・初動での前提合わせを徹底すること(手戻りと無駄を防ぐ)
・期待値を明文化して伝えること(受け手の自律を促す)
・ツールで生んだ時間を“価値設計”に振ること(付加価値を高める)

これらはどれも地味で泥臭い作業ですが、積み重ねが組織の“続く力”につながります。

 

私から経営層への投げかけ

私は現場で得た試行錯誤のノウハウを率直に共有しました。
大切なのは、完璧さではなく、改善を続ける姿勢です。経営層の皆さまにお伺いしたいのは次の点です。

・貴社では「プロジェクトの初動」をどのように定義し、どのレベルで共有していますか?
・ミドル層の役割を「教える側」「価値設計の担い手」として再定義することに、どの程度の優先度を置いていますか?
・ツール導入で生まれた時間を、現場は確実に“価値創出”に振り向けられていますか?

私たちはまだ道半ばです。だからこそ、同じ課題を抱える経営者やマネージャーの皆さまと対話をしたい。
実務レベルの知見を交換することで、より現実的で再現可能な改善策が見えてくると信じています。

本稿が、貴社の「当たり前の見直し」のきっかけになれば幸いです。

 

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