感性2025.5.14 株式会社クリエイティブアローズ 乳井 俊文
皆さん、こんにちは。SHIPアソシエイトパートナー、株式会社クリエイティブアローズの乳井です。最近、私の中で引っかかって離れない言葉があります。「SBNR|Spiritual But Not Religious(宗教的ではないが、スピリチュアル)」という価値観です。この言葉、もともとは欧米の宗教社会の中で、「既存宗教には帰属しないが、自分なりの精神性や信仰心を持つ人々」を表す概念として誕生しました。しかし今や、その概念は単なる宗教観の枠を超え、人の“感じ方”や“つながり方”そのものを表す新しいライフスタイルやマインドセットとして広がりつつあります。本日はこのSBNRをテーマにお伝えしたいと思います。
SBNRとは?
SBNRとは「宗教的ではないが、スピリチュアルである(Spiritual But Not Religious)」という人々の価値観を示す言葉です。もともとはアメリカの社会学用語ですが、近年では世界中のZ世代・ミレニアル世代に共通する感性として注目されています。特徴的なのは、彼らが“既存の宗教や権威”に帰属しない一方で、「つながり」「意味」「精神性」を求めていること。それは企業組織に対する態度にも顕著に表れており、上下関係よりも“共鳴できるかどうか”を重視する、ある意味「空気の感受性」が強い世代です。このSBNR的感性は、私たちが手掛ける組織デザインやインナーブランディング、ブランド戦略にも大きなヒントを与えてくれます。
|01|組織は“意味”でつながる時代へ
事例①:パタゴニア(Patagonia)
アウトドアブランド・パタゴニアは、世界的に「環境保護」や「企業の姿勢」で注目されていますが、社員が自発的に理念を語り、活動することでも知られています。ポイントは「理念の一方通行」ではなく、「内面化されたスピリチュアルな共感」が起きていること。例えば彼らは、「Why work here?(なぜここで働くのか)」を個人の声で語る動画やエピソードを共有し、日常の中に理念が“祈りのように”染み込んでいます。これはまさに、SBNRが求める“自分の物語とつながる職場”の形。私たちが行う組織ブランディングにおいても、以下のポイントが重要です。
✔理念の「翻訳と再解釈」
✔形式ではなく「リズムとしての共有」
✔管理ではなく「場づくり・語らい・余白」の設計
✔制度でなく “魂が宿る小さな営み”をどうデザインするか
|02|ロジックではなく、“感覚的な共鳴”で選ばれるブランドへ
事例②:BAUM(バウム)/資生堂
資生堂のスキンケアブランド「BAUM」は、“樹木の恵み”をテーマに、香りや音、静けさ、自然との調和をブランド体験の中心に据えています。商品説明はあえて最小限。代わりに、「森にいるような心地よさ」を店舗やプロモーション全体で表現しています。これは、SBNR的な「合理的説明より、空間や雰囲気で選ぶ感性」に刺さります。まるで“論理”ではなく“波動”のようなものです。ブランディング実務では以下のような工夫を取り入れることが可能です。
✔香り、間、静けさといった非言語のレイヤーの設計
✔「スペックの差」ではなく「感じる理由」での選択肢づくり
✔世界観が“体験として浸透する”クリエイティブ設計(例:イベント、空間演出、映像表現)
✔「売る」より「共に過ごす空気をつくる」
|03|沈黙と余白の時代に、“祈りのようなブランド体験”を
事例③:星野リゾート「界」シリーズ
旅館ブランド「界」は、日本文化の“静けさ”を意識した体験価値を大切にしています。スタッフは過度な接客を避け、空間に“間”を残す。また、地域の伝統や精神性に根ざした「ご当地楽」なども、まさにSBNR的アプローチです。「余白の設計」が、人の心を深く動かす時代になっています。
例えば、地域ブランドや食品プロモーションのなかでも、ただ特徴を説明するのではなく、映像に静けさと余韻を持たせたり、音を“置く”ことで情緒に訴える設計が考えられます。これは「言葉にしすぎないことで、むしろ伝わる」というクリエティブの本質のあらわれなのかもしれません。
|04|クリエイティブにおけるスピリチュアルなアプローチの可能性
“正しさ”だけでは人の心を動かしにくくなっています。これは、企業経営やマーケティング領域にも当てはまります。例えば、このように解釈することも出来ます。
✔求められるのは、「説明」ではなく「共鳴」
✔「説得」ではなく「空気感」
✔「スペック」ではなく「心が動くか」
私たちクリエイティブアローズは、これまで数多くの企業や地域のブランディングに携わってきましたが、これからは、SBNR的感性を持つ生活者とどう共鳴するかをテーマに、“共感”を超えた“共振”のマーケティングを目指していきたいと考えています。
最後に
時代が大きく揺れ動く今、私たちクリエイティブアローズは、単に「モノを売る」「サービスを広める」ことだけではなく、「その人にとって、意味ある出会いをどう生むか」という視点で、マーケティングや組織のデザインを捉え直していきたいと思っています。「答え」ではなく、「問い」と「共鳴」をつくる。これが、SBNR時代における、私たちの新たな道なのかもしれません。
株式会社クリエイティブアローズ
代表取締役 乳井 俊文