2025.8.27 株式会社クリエイティブアローズ 乳井 俊文

皆さん、こんにちは。株式会社クリエイティブアローズの乳井です。

8月も後半。東京の街はまだ真夏の熱気に包まれています。アスファルトから立ち上る陽炎のような暑さの中で、夕暮れ時になるとビルの谷間を抜けて少し涼やかな風が吹き込んでくる。そんな一瞬に、私は「変化の兆し」というものを感じます。暑さの只中でも、確かに次の季節はやってきている。
経営もまた同じではないでしょうか。激しい日常の中にあっても、未来の変化の兆候を掴み取れるかどうか。それが経営者の感性にかかっています。

先日、世界中のクリエイティブが集結する舞台、カンヌライオンズで示された新しい潮流を目にしました。そこにあったのは、テクノロジーの進化と人間性の価値の再評価、そして文化をつくるファンコミュニティの力や多様性の表れでした。これらは決して広告やエンターテインメントの話にとどまりません。地方企業にとっても経営のヒントになる、大切な示唆が含まれています。

AIと人間性の共創

カンヌで最も注目を集めたのはやはり「AI」でした。
AIは単なる効率化のツールではなく、クリエイティブを民主化し、誰もが発信者になれる時代を加速させています。

しかし同時に強調されていたのは「AIにできることが増えるほど、人間にしかできない価値は際立つ」という点です。共感や物語、心を動かす温度感、これらはAIには担えない領域です。

経営に置き換えれば、AIが作業を肩代わりし、人は「心を届ける」。この役割分担が競争力を生み出すことになります。

ファンが文化を育てる時代

大きな資本が文化をつくるのではなく、熱量ある小さなファンコミュニティが文化を動かす。これもカンヌで語られていた重要な流れです。

私自身、青森県平川市で手掛けた 「CRAZY CIDER」や「CRAZY DAYS」 のブランディングに伴走する中で、このことを実感しました。
当初は長野県のシードル文化をベンチマークに学びながら、小さな一歩を積み重ねたプロジェクトでした。しかしクラウドファンディングを通じて地元の人々、そして青森を離れた出身者たちが応援者として集まり、やがて彼ら自身がブランドの語り手となって広げてくれたのです。
今では、長野県のシードル事業者がCRAZY CIDERを参考にするようになった、と耳にします。これは「小さなファンが文化を広げる」ことの証明であり、地方発のブランドが全国に影響を与えられる好例だと思います。

経営者に求められるのは、「自社のファンをどう見つけ、どう育てるか」。ファンは消費者ではなく共創者であり、その声や熱量が未来をつくるのです。

購買を共感体験に変換する

次に、「コマースとクリエイティブの融合」です。購買の行為に共感や意味を持たせること。決して新しい事ではありませんが、それがブランド選択時に有利に働いたり、体験の記憶として残りやすくなるのです。

CRAZY CIDERのクラウドファンディングでは、単に「サイダーを飲んでみたい」という理由だけでなく、「青森のりんご文化を次世代につなぎたい」「地元を誇れる物語を応援したい」という想いで支援してくださる方が多くいました。これはまさに、購買が「取引」から「共感体験」に変わった瞬間です。

地方企業の多くは、商品そのものの強みだけでなく、「買うことが誰かの笑顔や未来につながる」という物語を持ち合わせています。それを言語化し、発信できるかどうかが、経営の大きな分岐点になるでしょう。

多様性は未来への投資

多様な人材への構造的な支援も大きなテーマでした。これはCSRではなく「未来を生き抜くための戦略」だという視点です。

地方においても同じことが言えます。
新しい感性を持つ人材、異なるバックグラウンドを持つ人材、都市から戻ってきた人材、そうした多様性が企業を前進させる推進力になります。
実際にCRAZY DAYSの開発過程では、従来の酒造りの枠にとらわれない発想が多く持ち込まれ、それが革新的なブランド体験へと結実しました。

経営者に問われるのは、それぞれの個の力を発揮できる舞台をどう設計するかです。多様な視点が交差したとき、地方からでも世界に通じるブランドは生まれるのだと私は確信しています。

観光業のケーススタディ

ここで観光業を例に挙げましょう。
観光を「地域課題解決の手段」として設計する視点もあります。

たとえば、農家の人手不足。
AIが収穫時期や農園の状況を分析し、旅行者に「収穫体験ツアー」を提案する。旅行者は観光として農作業に参加し、農家は労働力と交流を得られる。

旅行者にとっては「助け合う旅」、地域にとっては「課題を共有する機会」。ここに共感が生まれ、観光は単なる消費行為から“共に未来をつくる活動”へと進化します。

他業種への応用

|食品加工業|
クラウドファンディングを使い、地域の支持者と一緒に商品を育てていく。応援購入の体験そのものがファンの誇りになる。

|ものづくり企業|
多様な人材を採用し、異なる視点を製品開発に活かす。伝統の技術に新しい発想を掛け合わせることで「地域らしさ」を再解釈できる。

2025年のカンヌが私たちに投げかけた問いを、あらためて整理してみます。

✓AIの時代に、あなたの会社にしかない人間的な価値は何か?
✓あなたの事業を心から応援してくれるファンをどう巻き込み、どう育てるか?
✓購買をどのように共感体験へ変えることができるか?
✓多様な人材が力を発揮できる舞台を、どう設計するか?

経営者は単なる利益追求者ではなく、共感と文化を編集する存在です。

最後に

カンヌライオンズから感じられる潮流は、遠いフランスの話ではなく、私たちの経営の足元を照らす光でもあります。
小さな会社だからこそできる挑戦がある。地域だからこそ育てられる物語がある。
私はその信念を胸に、これからも「人間性」と「共感」を軸にしたブランドづくりに挑んでいきたいと思います。

株式会社クリエイティブアローズ
代表取締役 乳井 俊文

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