グラスハート2025.9.24 株式会社クリエイティブアローズ 乳井 俊文
皆さん、こんにちは。
株式会社クリエイティブアローズ代表の乳井です。
9月の東京。空はまだ夏の熱を残しながらも、ビルの谷間を抜ける風には秋の涼しさが混ざり始めています。街路樹の葉はまだ青々としていますが、よく見るとほんのりと黄色の影を帯びています。季節の変化は、気づかぬうちに始まっている。その静かな変化を感じ取ると、経営もまた「気づき」が未来を左右するものだと改めて考えさせられます。
最近、Netflixのドラマ「グラスハート」を鑑賞しました。作品の内容に触れることは控えますが、象徴的なタイトルから強いインスピレーションを受けました。「ガラスの心」とは、脆さを意味する一方で、光を通す透明さや輝きをも含んでいます。その二面性が、今の時代の経営やチームビルディングに大きな示唆を与えてくれると感じました。
砂からガラスへ:事業の成熟に必要な熱量
ガラスの起源は砂です。何の変哲もない砂が、強烈な熱を受けることで姿を変え、透明で光を宿すガラスへと生まれ変わります。
これはまさに事業や組織と同じです。最初は無形のアイデアに過ぎないものが、困難や挑戦という「熱」を受けて形を変え、やがて多くの人に価値を届ける存在になる。
経営者にとっての課題は、この「熱」をどう持続させるかです。熱を加えることを恐れ、ぬるま湯のような経営にとどまれば、砂は砂のままです。しかし勇気を持って熱をかけ続ければ、組織は次第に透き通ったガラスへと変化していきます。
私自身も、青森で取り組んできたCRAZY CIDERやCRAZY DAYSのプロジェクトでこのプロセスを強く実感しました。最初は砂のように形のない「夢」でしたが、議論や失敗、挑戦という熱を受けて、今はガラスのように輝くブランドへと成長しています。
割れやすさは「弱さ」ではなく「進化の余白」
ガラスは美しい一方で、割れやすい。これは経営者にとって恐怖でもあります。せっかく積み上げた組織や仕組みが、一つの失敗や環境変化で崩れるのではないか。
しかし、ガラスが割れることにはもう一つの側面があります。割れたガラスはリサイクルされ、新しい形に生まれ変わることができるのです。
経営においても同じです。事業の失敗や戦略の見直しは、痛みを伴いますが、それが新しい事業の種になる。むしろ「一度割れた経験」を持つ組織のほうが、しなやかで持続可能な力を持つのです。
ハーバード・ビジネス・レビューの研究でも「脆さを認めるリーダーほど、部下からの信頼を得やすい」と示されています。
・脆さ=リスク認識の高さ
・脆さ=新しい挑戦に臨む柔軟性
・脆さ=人に頼れる謙虚さ
つまり脆さは弱点ではなく、むしろ強さを裏打ちする「経営リソース」なのです。割れることを恐れるのではなく、割れた後にどう再生するか。そこにこそ経営者の真価が問われます。
ステンドグラスと組織の多様性
ガラスにはもう一つ、魅力的な側面があります。それはステンドグラスです。無数の色ガラスが組み合わさり、外からの光を受けることで、美しい模様を映し出します。
これはまさに、多様な人材が集う組織の姿です。
同じ色のガラスだけを集めても、単調な景色しか生まれません。しかし異なる色、異なる形を持ったガラスが一堂に会することで、想像を超える模様が現れます。経営者が果たすべき役割は、この「光を通す枠組み」を設計することです。
多様性をただ「寄せ集める」だけでは、ガラス片はただ散らばっているにすぎません。そこに明確なビジョンという枠があることで、初めて光が模様を描くのです。
チームづくりはガラス細工のようです。火にかけ、柔らかくした素材を少しずつ形づくり、冷ましながら固める。手を抜けば割れ、時間をかければ輝きを増す。
・一人ひとりを「素材」として尊重する
・多様性を組み合わせる(ステンドグラスのように)
・割れた経験(失敗)をリサイクルし、新しい形にする
経営者は「ガラス職人」としての眼差しを持つ必要がありそうです。ステンドグラスを見上げるときの感動を、組織の中で再現する。これがチームビルディングの本質なのかも知れません。
ガラス瓶が教えてくれる「熟成」の時間
ガラスは「保存」の役割も担います。ワインやウイスキーを熟成させる瓶、薬を守る瓶。ガラス瓶は外界から中身を守り、時を経ることで価値を高めます。
これは経営でいうと「人材育成」や「企業文化」に当たります。短期的な成果を追いすぎて人をすぐに入れ替えるのではなく、時間をかけて熟成させる。見えにくい変化かもしれませんが、その積み重ねがやがてブランドや信用として外に現れます。
特に中小企業においては「時間を味方につける経営」が重要です。ガラス瓶に閉じ込められた液体が年月とともに香りを深めるように、社員一人ひとりが経験を重ねることで組織全体が豊かさを増していくのです。
鏡ガラスと経営者の内省
ガラスは時に「鏡」にもなります。鏡は自分を映し出し、客観的に姿を見せてくれます。
経営者にとっての鏡は、社員や顧客の声です。時に厳しい言葉が返ってくることもあります。しかしそれを避けずに受け止め、自分の姿を修正していくことで、経営は磨かれていきます。
リーダーは「自分を映す鏡」を持たないと独善に陥ります。社内で異論を排除する組織は、やがて市場で淘汰されます。経営者こそ、最も繊細で大きな鏡を持たねばならない存在なのです。
窓ガラスと透明性
ガラスは「窓」として、外の世界を映し出します。
経営において透明性が求められるのは、社員が外の景色を共有できるようにするためです。経営数値や方向性を閉ざしてしまえば、社員は曇った窓の中で手探りを続けるしかありません。
逆に、ビジョンという枠組みがしっかりと存在し、経営の現実をオープンにすれば、社員は自ら外を見て、主体的に行動しやすくなります。曇りのない窓ガラスのような経営こそが、これからの時代に求められる姿だと考えています。
経営フレームに重ねる「ガラスの心」
ここまでの比喩を、経営フレームに重ねるとこう整理できます。
①砂→ガラス:アイデアから事業へ(事業開発プロセス)
②割れるガラス:失敗の再生(リスクマネジメント)
③ステンドグラス:多様性の活用(組織開発)
④ガラス瓶:時間の熟成(人材育成・企業文化)
⑤鏡ガラス:自己認識(リーダーシップ)
⑥窓ガラス:透明性(ガバナンス・情報共有)
「ガラスの心」とは、これらすべてを受け入れ、恐れずに活かす経営姿勢なのです。
脆さを誇れ
社会は大きな転換期にあります。AI、人口減少、地政学リスク…。強さだけを誇示するリーダーは、かえって信頼を失いかねません。
これからの経営者は「脆さを誇る」勇気を持つことが必要です。弱さを認め、透明性を大事にし、多様性を受け入れる。そうしたリーダーこそが、信頼を結晶化させ、次世代へと組織をつなげるのです。
これからの経営者に必要なのは、もしかすると
・脆さを認める勇気
・信頼を結晶化させる力
・透明性を担保する仕組み
強さやタフさだけではない、「ガラスの心」なのかもしれません。
秋の東京とガラスの輝き
夕暮れの東京、ガラス張りのビルがオレンジ色に染まる景色は圧巻です。無数の窓がそれぞれ光を反射し、街全体を照らしている。その光景は、まるで組織が一人ひとりの力で輝いている姿のようです。
ガラスの心を持つ経営者は、脆さを認めながらも光を通し、未来を映し出します。秋の訪れとともに、皆さんの組織もまた新しい光を受け取り、より美しく輝いていくことを願っています。
株式会社クリエイティブアローズ
代表取締役 乳井 俊文